宇宙空間に浮かべた大型の太陽電池パネルで発電し、電磁波などに変換して地上に送って利用する「宇宙太陽光発電」の研究が本格化している。実現するのは2030年代後半と予測される夢の技術だが、東日本大震災後に電力供給への関心が高まったことを背景に、にわかに注目が集まり始めた。実現する可能性はあるのか。
9月、京都大学宇治キャンパス(京都府宇治市)で、新施設が公開された。宇宙空間の太陽電池から地上に電気を送るマイクロ波送電を地上で再現する実験施設。10億円弱を投じた施設は世界最大という。
宇宙太陽光発電は1968年、米国のピーター・グレーザー博士が米科学誌「サイエンス」に構想を発表したのが始まり。米航空宇宙局や欧州宇宙機関が研究を開始。日本でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)や京都大学が取り組む。
宇宙太陽光発電の仕組みはこうだ。直径2~3キロメートルの巨大な太陽電池パネルをロケットで打ち上げ、上空約3万6千キロメートルの軌道で広げる。発電した電気は電子レンジなどに使われるマイクロ波に変換。送信アンテナから地表の直径2キロメートルほどの受信アンテナに送る。地上でマイクロ波を電気に戻して利用する。レーザー光で送る方式も候補だ。
地上と違って天候に左右されず常に発電できる。直径2~3キロメートルのパネル1つで出力は100万キロワット級。原発1基分に相当する。マイクロ波は雲も通り抜ける。京都大学の篠原真毅教授は「技術的には長距離を送電できる。要素技術は今でも使える水準だ」と話す。
といっても簡単に実現できるものではない。宇宙から地上のアンテナにマイクロ波を届けるのは「ゴルフで4キロメートル先からホールインワンを狙うくらいの精度が必要」(篠原教授)。送信アンテナの角度が0.01度変わるだけで地上では1キロメートルもずれる。京大の新施設では、伝送方法を数年かけて実証する計画だ。コンセント無しでも電気自動車を充電できる装置の開発にも役立てながら、未来技術に磨きをかける。
もうひとつの難題は資材を輸送する方法だ。日本の主力ロケット「H2A」でも直径2~3キロメートルの太陽電池パネルを1度に打ち上げるのは大変。資材はざっと1万トンで完成に1000回の打ち上げが必要になる。
そこで国際宇宙ステーションが周回する地上約400キロメートルの軌道にH2Aロケットで資材を輸送。さらに別の輸送機で静止軌道に運んで組み立てる。小惑星探査機「はやぶさ」のような「日本の宇宙技術の結集が不可欠だ」(篠原教授)。
今後の技術革新で、重い物資を輸送できる新型ロケットが現れ、太陽電池パネルがぐんと軽くなる可能性はある。JAXAなどの試算によると、原発1基分の発電量にあたる太陽光発電所を宇宙に建設するコストは、総額1兆2436億円。一見割高だが天候に左右されない安定稼働によって運転コストが低く抑えられ、発電コストは1キロワット時あたり8.5円。石炭や天然ガスを使う火力発電とほぼ同じ水準で、水力や風力といった自然エネルギーよりも安くなるとみている。
莫大な建設資材を現地で調達すればいい。そんな将来構想を温めているのが清水建設のグループだ。
「LUNA RING(ルナリング)」と銘打った計画は、月の表面に太陽電池パネルを敷設する。地球から運んだ月面ロボットが、月にある砂を原料に太陽電池や施設を造る。同社は米国の月探査計画「アポロ」が持ち帰った月の石の研究から、月の砂を地上で再現。その砂からはコンクリートが作れるという。砂は太陽電池の原材料に使うシリコン成分も含み、現地生産の実現性はあるとみる。
月の赤道面を1周、長さ約1万1千キロメートルで幅12キロメートルの太陽電池を並べると「日本の総エネルギー需要をまかなえる計算」(清水建設の金森洋史宇宙・ロボットグループリーダー)。宇宙関係の国際法からは国際協力が欠かせないが、夢物語ではないと強調する。
東日本大震災後、節電の意識が高まった。今は奇想天外と思える発想に関心が向かうのも、それだけエネルギー問題が地球の未来に重くのしかかっていることを物語っている。
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